テスラが10月15日(米国時間)、新型スポーツカー「ロードスター」を発表した。SpaceXのロケット技術を使い、車体が宙に浮いて回転するデモを披露。テスラはこれを「空飛ぶクルマ」と位置づけ、世界的な話題を集めている。

本メディアはeVTOL(電動垂直離着陸機)を中心に「空飛ぶクルマ」を追ってきた。その視点から見ると、今回のロードスターは、これまで取り上げてきたJobyやSkyDriveとは仕組みの異なる乗り物だ。まずは何が発表されたのかを整理し、そのうえで、この出来事が業界にとって持つ意味を考えたい。

何が発表されたのか

発表の目玉は、ロードスターが地上から浮き上がり、他の車(Cybertruckなど)を飛び越え、空中で回転してみせたデモだ。これを可能にしているのが、SpaceX由来の技術である。

テスラのエンジニアリング担当VPによれば、車体には10基のスラスター(噴射装置)と、600リットルの圧縮空気タンクが搭載されている。この圧縮空気を一気に噴射することで、瞬間的に車体を持ち上げる仕組みだ。ロケットの炎で飛ぶのではなく、高圧の空気を噴き出す「コールドガス・スラスター」と呼ばれる方式である。

性能面では、0→60マイル(約96km/h)加速が1秒(ライブデモでは0.81秒)、航続距離は300マイル(約480km)、最高速度は230マイル(約370km/h)超とされる。グレードは3つ用意される。

  • Performance(公道モデル):2人乗り。予約金5万ドル(約750万円)
  • Thrust(限定):後部にスラスターを追加。0→60mphが1秒未満。予約金25万ドル(約3,750万円)
  • Rocket(最上位):1人乗り。車体の周囲に10基のスラスターを配置し、空中浮遊に対応。「招待制」

生産開始は2028年を予定(本体価格は未発表)。

仕組みは違う。でも、それがこの発表の価値を下げるわけではない

ここは、専門メディアとして整理しておきたい。

今回披露されたのは、海外メディアの表現を借りれば「数秒間の空中スタント」であり、長距離を移動する飛行ではない。テスラのエンジニア自身、スラスターは「瞬間的な方向性のある力を与える」ものだと説明している。本メディアが追ってきたeVTOLが、翼やローターで揚力を生み、人を乗せて数十km以上を移動することを目指すのに対し、ロードスターは圧縮空気を噴射して数秒だけ跳ぶ車だ。両者は、仕組みも狙いも異なる。

テスラは、世界でもっとも注目されるブランドのひとつが「空飛ぶクルマ」という言葉を堂々と掲げ、車が宙に浮く映像を全世界に届けた。これまで一部の業界関係者や投資家の間で語られてきた「空を飛ぶ車」というビジョンが、一般の人々にとって、一気に身近で現実味のあるものになった。

この社会的なインパクトは、技術の違い云々とは別軸で、きわめて大きい。

マスク氏の手法は、相変わらずぶっ飛んでいる。安全性や採算を最優先に語るのではなく、まず「すごい」を見せて世界の関心をさらう。その是非はあるにせよ、「空飛ぶ車は本当に来るのかもしれない」という期待を、これほど広く、わかりやすい形で広げたプレイヤーは、ほかにいない。純粋に、面白いイベントだった。

残る論点——安全性と制度

もちろん、前に進むための課題もある。

マスク氏自身が「安全性は主目的ではない」と述べ、「この車で誰も死なせないことを目指す」という独特の言い回しをしている。歩行者のそばで高圧の空気を噴射することへの懸念や、空中で宙返りする車をどう法律で分類するのか(公道の管轄か、航空当局=FAAの管轄か)といった問題も指摘されている。実際、最上位のRocketは公道走行が認められていない。

これらは、テスラに限らず、「車が空に関わる」時代に業界全体が向き合うことになるテーマだ。社会受容性を高めた今回の発表は、その議論を前倒しで起こすきっかけにもなる。

なぜ今、この発表だったのか

ビジネスの文脈も押さえておきたい。ロードスターは2017年に初公開され、2020年の生産開始を約束しながら、何度も延期されてきた。今回も「2028年生産開始」とされるが、アナリストはこれを「保証ではなく、野心的な目標」と見ている。マスク氏自身、「収益の観点で大きく針を動かすものではない」と認めている。

つまりこれは、収益の柱というより、ブランドと話題性のための製品という側面が強い。だが、そのブランディングこそがテスラの最大の武器であり、「空飛ぶ車」というカテゴリー全体の認知を押し上げる力になっている。


本文の円換算は1ドル=150円で計算。

主な参照ソース: TechCrunch/Forbes/Impress Watch/CNBC/Space.com