前回(Vol.02)まで、空飛ぶ車(eVTOL)が何なのか、他の乗り物と何が違うのかを見てきました。今回は「なぜ今、これほど注目されているのか」を掘り下げます。

意外に思われるかもしれませんが、「垂直に飛ぶ乗り物」というアイデア自体は、まったく新しいものではありません。似た構想の研究は、実は1960年前後から60年以上も続いてきました。

では、なぜ昔からあったアイデアが、"今"になって急に脚光を浴びているのか。理由は大きく4つあります。

理由1:技術が「ようやく」追いついた

一番大きいのは、技術の成熟です。

空飛ぶ車を電気で飛ばすには、軽くて高性能なバッテリーとモーターが欠かせません。この20年ほどで、電気自動車(EV)やスマートフォンの普及とともに、バッテリー技術が飛躍的に進歩しました。

さらに、ドローンの普及で「複数のローターを電子制御で安定させて飛ばす」技術も確立されました。実は、空飛ぶ車を構成する部品の多くは、EVやドローンの産業と重なっています。つまり、他の分野の進歩が、空飛ぶ車の土台を整えたのです。

アイデアは昔からあった。でも、それを実現する「部品」が揃ったのが、ようやく今だった、というわけです。

理由2:ビジネスの「可能性」が具体的に示された

転機になった出来事があります。2016年、配車サービス大手のUberが、空飛ぶ車に関する詳細な白書を発表しました。

それまで空飛ぶ車は漠然とした「夢の乗り物」でしたが、Uberは機体価格・運航コスト・料金といった数字を具体的に示し、「都市の空を使った移動サービスは、事業として成立しうる」という青写真を描いてみせました。将来的にはタクシー並みの料金も可能だ、と。

この白書は、業界の関心と投資を一気に集めました。コンサルティング会社マッキンゼーの集計によれば、eVTOLやドローン配送などを含む「次世代航空モビリティ」分野には、2004年からの累計で約220億ドル(3兆円超)が投じられています。

ただし、注意したいのは、これはあくまで「可能性の提案」だったという点です。Uber自身は2020年、この事業(Elevate部門)をJoby Aviationに売却して撤退しました。そして2026年現在も、eVTOLで安定的に利益を上げている会社は、まだ存在しません。マッキンゼーは、上場するeVTOL大手の一部について「手元資金が数年しかもたない」とも指摘しています。「成立しうる」という青写真は描かれたものの、それが本当に儲かる事業になるかは、いまだ証明されていないのです。

それでも、この白書が「空飛ぶ車を、夢物語から"検討に値する事業"へと引き上げた」ことは間違いありません。今の注目の出発点は、ここにあります。

理由3:社会的な課題への「答え」になりうる

都市の慢性的な渋滞、そして脱炭素(CO2削減)の流れ。この2つの課題に対して、空飛ぶ車は「渋滞を飛び越え、電気で走るクリーンな移動手段」として、ひとつの答えになりうると期待されています。

地上の道路に依存しない移動は、災害時の輸送や、交通の不便な地方・離島の足としても注目されています。

理由4:目に見える「きっかけ」があった

そして、一般の人の目に触れる機会が増えました。日本では、2025年の大阪・関西万博が大きな契機になりました。専用の離着陸場(バーティポート)が設けられ、実際の機体展示やデモフライトが多くの人の目に触れました。

「未来の話」だったものが「もうすぐの話」として実感された——この体感の変化は大きいです。

ただし、注目と実現は別物

ここまで「なぜ注目されるか」を見てきましたが、最後に冷静な補足を。

注目が集まっていることと、実際に普及することは、別の話です。前回(Vol.02)で触れたバッテリーによる飛行距離の制約をはじめ、規制の整備、離着陸場の確保、安全性への信頼、採算の取れる料金設定——越えるべき壁はまだいくつも残っています。

期待が大きいのは事実。でも、その期待どおりに進むかどうかは、これらの課題をどう乗り越えるかにかかっています。本メディアでは、その「期待」と「現実」の両方を、これからも追いかけていきます。


次回(Vol.04)は、「空飛ぶ車で、具体的に何ができるのか」——エアタクシー、観光、物流、災害対応など、実際の使い道(ユースケース)を見ていきます。